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明日死ぬとしたら、生き方が変わるのか?

いちばん大切な人の誕生日を忘れたADHDが、メモをしても手帳に書いても忘れてしまう理由

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親友や友達の誕生日を忘れて、怒らせたADD

 
ADHD[注意欠如多動性障害]の疑いが濃厚で、専門医による受診の結果……ADD[注意欠如障害 ※多動はない]という診断がおりた生徒がかつていました。尚、この話はその生徒本人とご家族の許可を得て書いております。

 

 
 
生徒には悩みがありました。それは自分が「とかく忘れてしまうこと」。
 
  1. 忘れないようにメモをとる
  2. メモをとったページを忘れる
  3. 何に・どこにメモをとったのか忘れる
 
↑このようなことは発達障害あるあるとしてあまりにもよくある、忘れる話です。けれど世の中では、一般社会ではこれは通用しません。はっきり言って迷惑です。

 
その生徒は勤続6年の会社で女性社員達から「嫌われている」とよく言っていました。前の会社でも嫌われていたから転職した、前の前の会社でも意地悪されていたから辞めた、子どもの頃から女の子に嫌われてばかりだとも嘆いていました。
 
そんな生徒に優しくしてくれる女性が唯一いました。
ストレス発散に始めたダンススクールで知り合った「エリコさん(仮)」。
 
 
 
あらゆる大切なことを忘れてしまう生徒でしたが、エリコさんに関することはよく記憶していました。エリコさんと交わした会話・エリコさんが好きな物事・エリコさんが着用していたオシャレな服とそのブランド名etc,,,
 
けれどある日を境に、エリコさんを忘れていきます――。
 
 
 
 
 

好きな人の誕生日・大切な約束を忘れてしまう

 
発達障害改善のトレーニング開始時、涙に濡れた顔でカメラ前に座っている生徒の姿がありました。※トレーニングはLINEやスカイプのビデオ通話を通して行っています
 
 
「どうしたの?」とたずねると、「エリコさんを悲しませてしまったと思う」「エリコさんに嫌われてしまったと思う」とさらに泣きはじめました。

エリコさんを悲しませてしまった理由はなにかとたずねると
 
 
  • エリコさんのお誕生日を忘れてしまった
  • 自分の誕生日には素敵なレストランでお祝いをしていただいたので、エリコさんの誕生日にも相応のお店を予約してお祝いしようと思っていたのに、それすらも忘れていた
  • 自分は本当に駄目な人間だ
  • エリコさんを悲しませてしまった
  • エリコさんに嫌われてしまったと思う
  • やっとできた友達で、すごく優しくしてもらっていたのに
  • やっぱり女の人と自分はうまく交流ができない
 
 
 
「エリコさんのお誕生日をいつ思いだしたのか?」
「今日」

「なぜ今日思いだしたのか」
「ダンススクールで、エリコさんにお誕生日おめでとうとプレゼントを渡しているメンバーがいたから」

「その時におめでとうは言わなかったのか」
頭の中が真っ白になって言えなかった

「エリコさんに忘れていたことを謝ったのか」
頭の中が真っ白になって言えなかった
 
 
――ADHDの特性を持っている人達と接しているとこういったことはよくあります。あるあると言っても良いでしょう。※無論、アスペルガーにも短期記憶に弱い特性があるため「あるある」です。
 
 
 
 
 

ADHDにとって「忘れないようにメモをとる」ということ

 
大人の発達障害というものをまるで知らなかった頃――カウンセラーやトレーナーになる以前の話です――雇い入れたADHDのスタッフに対して「メモをとったのに、どうして忘れてしまうんだろう?」と、いつも不思議に思っていました。
 
自分が忘れっぽいことを自覚していないのか、自分は賢いと思っているのか、メモすらとらないこともありました。
 
 
これだけ散々(あなたが忘れることで)皆が迷惑を被っているのにメモをとらないなんてどう考えているのか? と叱責したこともあります。その答えは、ADHDのスタッフによって私がカサンドラ症候群を発症 → 治癒していく過程の中で判明していきました。
 
 
●メモをとることそのものを忘れているわけでもなく
●自分は賢いと思っているからメモをとらないのでもなく
●忘れっぽいことを自覚していないからメモをとらないのではなく
 
 
  • 「メモをとりながら」+「話を聞く」という2つのことを同時にするから忘れてしまうのかも!? と、どちらか一方を選択した
  • 話を聞いています! 申し訳なく思っています! という意思表示のため、余計なこと(メモをとる)をせずに、真剣に聞いている姿を見せている
  • 「聞いてるのか!」とさらに怒られたくないので、聞いている
 
 
上記はADHDの特性を持つ、100名前後の生徒達からのヒアリング結果です。
 
彼らの行動理由に共感はできませんが「なるほど……」「そういう理由なのか……」「こんな風に考える人達が一定数いるんだな……」と受け入れはしました。私とは違う人達がいる、ということそのものは受け入れたとでもいいましょうか。
 
 
ですが、かつて雇っていたADHDのスタッフによってカサンドラ症候群を発症させた私からすると「特性により忘れてしまう側の思い」は分かった。
 
じゃあ「忘れられる側の気持ち」も同じように知ってくれ、と思うのです。
 
特性を持って生まれた不遇や権利を主張するだけではなく、特性を持たない側の苦しみもちゃんと知ってくれと思う。相互理解・共存ってそういうことだよと言いたい。
 
 
 
 
 

忘れられる側の気持ち・教えたことを何度も忘れられる悲しさ

 
  • 馬鹿にされてるのかな
  • なめられているのかも
  • 「あなたの教え方が悪いんだよ」って暗に言われてるのかな
  • 教えなきゃいけないのに、どんどん嫌いになってきた
  • そもそも覚える気がないのかも
  • まともに教えることもできない俺/私が「無能」だと周りに思われてまう
  • この間も教えたのにどうして忘れるんだろう?
  • さっき教えたばかりなのにもう忘れたの?
  • このことについて教えるのは……もう何回目になるんだろう?
  • やっぱり馬鹿にされてるのかも
  • やっぱりなめられているのかも
  • やっぱり 「あなたの教え方が悪いんだよ」って暗に言われてるんだろう
  • この人と接するの……もう嫌だ
  • どうしてこの人に教える係が俺/私なんだろう……
  • 苦しい……助けて……
  • どうして俺/私がこんなに苦しんでるのに、この人は平然としていられるんだろう……
  • 俺/私のことを嫌いなんだろう
  • 俺/私のことなど大切に思ってないってことの証だな
 
 
 
忘れられる側の気持ちの「ほんの一部」。でもこのほんの一部が毎日積み重なっていく。だからカサンドラ症候群を発症するんです。
 
 
冒頭の話に戻ります。
 
 
 
 
 

【原因究明】忘れてしまったのは、緊急事態が入ってきたから

 
やっとできた大切な友達・エリコさんのお誕生日を忘れてしまったことを強く後悔しているADDの生徒が「なぜ、そんなにも大切な人のバースデーを忘れてしまったのか」この原因を知る必要がありました。私は先生ですから。
 
 
いくつもの質問を生徒に投げかけ、原因と思しきものが判明しました。それは、生徒はダンスの振付を覚えることが非常に苦手、ということが起因します。
 
 
【注】未読の方はさきに下記の記事をご覧いただいた方が、以下の説明の意味が入りやすいかと思います。
 
 
 
 
  • ダンスの振付という「短期記憶」を覚えるのがADHDの特性により苦手
  • 振付師の先生のダンスを動画にとらせてもらって、自宅で日々練習
 
 ↑この時点で頭の中の道路は、交通渋滞を起こしています
 
 
  • ダンスの発表会があるという予測もしない知らせが入る
  • 否が応でも振付を覚えなければならない緊急事態が発生
 
 ↑この時点で頭の中の道路は、1台の車も入る余地もない大渋滞。
 
 ※1 ダンスという習いごとに発表会はつきものなのですが、生徒にとってはダンス教室はダンスを習うだけであり、発表会がつきものだとは微塵も思っていなかったようです。

 ※2 よって、予測もしない出来事・突発的事態に弱くパニックに陥る状態になりました。
 
 
 
これらにより、エリコさんの誕生日・誕生日を祝う予定は頭の中の道路から完全に押し出されることになったのです。頭の中はダンスの振付を覚えなければいけないこと、でいっぱい。ストレス過重状態です。
 
 
 
エリコさんの誕生日は手帳に記してありました。けれど、手帳を見返す余裕などわずかにも残っていないのです。「そんなことありえる?」と特性を持たない人は思うでしょう。
 
「ありえる」のです。それが発達障害なんです。
 
 
エリコさんの誕生日問題とダンスの振付問題、頭の中の道路は1本のまま――この当時はトレーニングを開始したばかりでしたので、まだまだ道路は1本――の生徒にとって2つの大切なことを同時進行して解決するのは、極めて難しいことです。
 
さて、この問題はどのように解決の道をたどったのでしょうか?(つづく)